日本国内で栽培・加工された紅茶は、「和紅茶」の名称でブランド化され、需要は大きく伸びています。日本における紅茶の生産は、1870年代(明治時代初期)から行われていましたが、世界的に紅茶人気が高まる中で、1990年代より本格的に紅茶生産へ取り組む機運が高まり、紅茶生産を開始する茶農家が増え始めました。その後、技術改良が重ねられ、世界の品評会において高い評価を受けるなど日本の和紅茶の品質は年々高まり、2010年以降、和紅茶ブームに火が付きます。2008年時点で和紅茶の産地拠点数は100未満でしたが、昨年2024年には1000を超え、今や茶農家の多くが緑茶の生産だけでなく、和紅茶の生産にも乗り出しています。
和紅茶の生産増加の背景には、緑茶産業の需要の変化があります。家庭用に販売される茶葉の販売は衰退の一途を辿る一方で、ペットボトル飲料に使用される業務用の茶葉の需要は増加しており、今後も安定した需要が見込めます。しかし、ペットボトル飲料用の茶葉は、年間を通し安定した作業が確保できるものの、納入価格は安価であり、大量生産・大量消費型のビジネスに将来的な不安を抱く茶農家は少なくありません。そこで茶産業の原点であり日本の伝統文化でもある、「急須でお茶を淹れる」需要を取り込むべく、和紅茶に一筋の光を見出したのです。
緑茶も和紅茶も、原材料となる茶葉は全て「チャノキ(ツバキ科)」の新芽を使用しており、緑茶と紅茶の違いは、「発酵の有無」にあります。緑茶は発酵させない「不発酵」のため、茶葉の鮮やかな緑色が残るお茶に仕上がります。一方、紅茶は十分に発酵させる「完全発酵」のため、茶葉は深い赤みを帯び、お茶も同様の色合いに仕上がります。和紅茶の場合、日本が開発した紅茶用の品種「べにふうき」を使用することが一般的ですが、近年は、緑茶向けの品種「やぶきた」を使用して、高品質な紅茶を生産する技術も向上しており、和紅茶の味わいはバラエティーに富んでいます。
「身土不二(しんどふじ)」。人間の身体と人間が暮らす土地は一体であるという意味で、紅茶も風土やそこで暮らす人々に適した茶葉が生産されます。世界最大の紅茶生産国はインドですが、熱帯地方の強い日差しを浴びることでタンニンが多く含まれることから、インド産の紅茶は渋みや香りが強く、インパクトある味わいが特徴です。砂糖やミルクを混ぜて飲むことが一般的で、スパイスの効いた料理と相性が良くなります。一方、和紅茶は、日本の穏やかな気候風土の中で育つため、タンニンは比較的少なく、渋みの少ない甘い香りと優しい味わいが特徴で、ストレートで飲むことが一般的です。デザートはもちろんのこと、出汁の効いた和食にも良く合います。最近は、和食のお店でも和紅茶を楽しめるお店が増え、ペアリングの定番として定着しつつあります。
コーヒーを楽しむ方の7割が男性に対し、紅茶を楽しむ方の7割が女性という統計があります。コロナ禍の影響で、自宅で過ごす時間を大切にする風潮が生まれたことから、和紅茶を淹れるための道具の需要も高まり、伝統工芸業界においても様々な素材や形状のティーポットが開発されています。コーヒーは食後に楽しむ傾向に対し、和紅茶は食後だけでなく食事中にも楽しめ、食とのペアリングに適したお茶です。栗や南瓜など日本の秋の味覚には、和紅茶とのペアリングがピッタリで、特にお勧めの季節となります。ティーポットで和紅茶を淹れ、秋の季節の移ろいを秋の味覚と共に楽しんではいかがでしょうか。日本茶の概念がきっと変わるはずです。