[第129号] 企業価値に新たな視点を〜デザイン経営

 昨年、経済産業省と特許庁が「デザイン経営」宣言を発表して以来、デザイン×経営というトピックスが活発になってきました。「デザイン経営」とは、企業価値向上のための重要な経営資源としてデザインを活用する経営である、と定義されており、2023年までの5年間を「デザイン経営」普及の集中期間として定め、官民連携して「デザイン経営」の実践と浸透を推進していくというものです。デザインと言うと、例えば製品やパッケージのような造形上の表現をイメージしますが、経営に於けるデザインとは、そうしたものの外見を好感度の高いものにするだけでなく、企業目的の実現への構想力や思考力を指します。つまりデザインの視点を企業経営の意思決定の場に据えることで、企業のブランド力とイノベーション力の向上を目指していくことが狙いです。それを実現するための必要条件としては、①経営チームにデザイン責任者がいること、②事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること、の2点が掲げられています。

 経営資源の3要素である「ヒト・モノ・カネ」に「情報」が加わり、さらに「デザイン」もその主軸となる時代になりました。世の中はモノ消費からコト消費へと移行しており、サービス産業は年々拡大し日本のGDPの約70%を占めるなど、その動向は日本経済に大きな影響を与えています。製造業でも自社で販売員を配置するなど、顧客との良好な関係作りのためのサービス産業的な部門を設けるケースが増えています。経営目標の達成度を測る指標が、顧客生涯価値(LTV)に変化している今、いかにして顧客との関係を築きそれを永きに渉って育てていくかは、全ての企業の課題とも言えます。企業と顧客とのコミュニケーションの方法にデザインを用いて、企業の存在価値やメッセージなど、言語化できない感覚をデザイン(可視化)し発信することで、他には代替のきかないその企業のブランド力を研ぎ澄まし、企業と顧客との確かな信頼関係を築いていくことは、多種多様な価値感が存在する現代において、あらゆる企業が新たに意識すべき重要な視点でもあります。

 「デザイン経営」の代表的企業としてアップル社が挙げられます。製品、店舗、広告、製品発表会など、デザインがあらゆる経営上の問題解決の強力なツールとなっており、アップル社は「デザイン経営」をもたらした立役者と言えるでしょう。日本の事例としては、自動車メーカー・マツダが挙げられます。それまでのデザイン戦略は、デザイン部門だけで、しかも車種別にデザイン開発が行われていましたが、リーマンショック後、経営の柱の一つにデザインを明確に位置付け、「魂動(こどう)」という共通コンセプトのもと、全従業員が価値感を共有。車種ごとではなく全車種共通のデザインにすることでメッセージ性を強め、デザインの力で業績をV字回復させた成功事例としても話題となりました。また、デザイナーが生活者の視点から人の暮しの中にある必然性を思考し、そこで得た気付きを具現化しイノベーションに繋げている企業が「無印良品」です。「最良の良品を生活者に届ける」のではなく、「最良の生活者を探求する」というデザイナー視点のコンセプトのもと、より良い暮しのために必要なものの本質をデザインし発信する「無印良品」のメッセージは、私たち消費者に確かな価値として届いています。

 私たち玉川堂は「打つ。時を打つ。」というコーポレートスローガンを持っています。これは、鎚起銅器・お客様・玉川堂の3つの関係性を一言で表したものです。職人の金鎚から生まれた銅器は、時をかけて使い続けることで味のある風合いに育ちます。そのお客様の銅器に玉川堂も永く寄り添っていくという意志が、この一文に込められています。このメッセージは経営の軸を成しており、また同時に玉川堂社員の中で、お客様への接客、製品開発のプロセス、製造工程の説明、店舗の清掃など、お客様との全ての接点におけるベースとなります。そして、そのメッセージを受け取ったお客様からの様々なフィードバックによって、お客様との関係、すなわちブランドをデザインし続けていると言えます。経営とは気付きの連続であり、また既存の価値の掘り起こしの連続です。確かな企業意志を柔軟な感覚で捉え続ける営みが、経営における「デザイン」の第一歩ではないでしょうか。