日本茶の世界的需要が高まる中、日本茶の輸出額は、2015年に100億円を超えて以降、過去最高を毎年更新しています。特に直近の輸出額は驚異的で、2024年の364億円に対して、昨年2025年は720億円と倍増。今年の最新データでは昨年を超える勢いとなっており、一気に輸出の主力品目へと浮上してきました。この輸出拡大を強力に後押ししているのが、抹茶の原料となる「碾茶(てんちゃ)」で、日本茶の輸出額の8割以上を占めています。数量限定の抹茶を求めて、訪日外国人が老舗茶店へ次々と訪問。海外でも抹茶の入手はより困難となっており、今、世界中で抹茶争奪戦の様相を呈しています。
この世界的な抹茶需要に対応すべく、玉露や煎茶などの「緑茶」の生産から、輸出向けの「碾茶」へと生産転換する茶農家が続出しており、今後、輸出額のさらなる増加が見込まれます。しかし、生産転換をするためには、機械導入などに多額の経費が掛かるほか、苗木を植えてから収穫まで約5年を要し、さらには、急速な抹茶ブームがどこまで持続するのか不透明であるとし、生産転換には慎重な姿勢を示す茶農家も見受けられます。一方で、これを好機とみた世界最大のお茶生産国・中国は、広大な土地と資本力を武器に、圧倒的なスピードで碾茶の作付面積を拡大しており、ベトナムやタイなどのASEANでも本格的な碾茶栽培を開始。これらの新興勢力によって、世界の抹茶市場は瞬く間に塗り替わりつつあり、日本の抹茶文化は、大きな転換期を迎えようとしています。
この抹茶ブームの契機は、世界大手カフェ企業が仕掛けた「抹茶ラテ」の世界的なヒットにあります。抹茶は特別な時に飲むお茶から、毎日気軽に楽しむお茶へと変化し、抹茶ラテはカフェ業界の定番カテゴリーとして確立しました。また、飲料だけでなく、菓子やアイスなどにも応用できる用途の広さに加え、視覚的インパクトのある鮮やかな緑色、様々なビタミンが豊富に含まれる健康食品としての効能も、世界的な普及を一層加速させました。それまで外国人の多くは、抹茶の渋味や苦味に抵抗感があったものの、ラテ・菓子・アイスなどへ加工することで、世界中の人々に適応する味覚となりつつあります。
抹茶ブームは視点を変えると、緑茶の需要を促す千載一遇の好機であり、日本茶の裾野を広げる入口として、大いに活用していきたいものです。その入口としてお勧めしたい日本茶は、「水出し緑茶」です。急須に多めの茶葉を入れ、氷と水を注ぎ、抽出時間は約5分。渋味と苦味はほとんど抽出されませんが、旨味と甘味に関しては、お湯より冷水の方が多く抽出されます。そのため、より真価を発揮する楽しみ方は、料理とのペアリングです。出汁の効いた和食・寿司・蕎麦などの相性の良さはもちろんのこと、ステーキ・焼き鳥などの味付けの濃い肉料理には濃い目に抽出すると相性が良く、また、辛い料理には口直しとしても最適。旨味と甘味のみ抽出される緑茶のため、ペアリングの幅広さが特徴です。さらに、冷水で淹れることでカフェイン量は大幅に減少し、ほぼノンカフェインですので夕食でも安心して楽しめます。夏が盛りとなり、水出し緑茶の美味しい季節ですので、是非お試しください。日本茶の新たな気付きに出会えるはずです。
ブームの中心となっている欧州では「テロワール(土地や風土の個性)」を意識する傾向があり、茶畑を見学して緑茶を楽しむ「ティーツーリズム」は、抹茶ブームを入口とし、緑茶への関心を促す方策として、大きな可能性を秘めています。茶畑を眺めながら楽しむ緑茶は、テロワールを五感で感じ取ることが出来、近年、訪日外国人に人気の産業観光となっています。「Matcha」が世界共通言語となり、日本茶がこれほど世界的に注目されることは、日本茶史上、初めてのこと。日本茶は急須で淹れることで、茶葉本来の味覚が抽出されるため、それを追求していくことが日本茶の文化です。それを価値に変えてブランディングすることによって、日本茶業界、ひいては、伝統工芸業界の発展にも繋がります。急須でお茶を淹れることの「暮らしの豊かさ」を、世界中のより多く方々に広がっていくことが、私たちの願いでもあります。