[第128号] 30年後の世界トップへ〜中国製造2025

 ドイツ「インダストリー4.0」、アメリカ「インダストリアル・インターネット」と並び、今、世界が注目しているのが中国政府が主導する「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」です。2049年の中国建国100周年までに「世界の製造強国のトップ」としての地位を築くことを目標に掲げたこの取り組みは、私たち日本の製造業の間でも話題となっています。中国製造2025は、2015年に中国政府が発表した、中国における今後10年間の製造業発展のロードマップで、建国100周年の2049年までの中国製造業発展計画を3段階で表し、その第1段階として、2025年までに世界の製造強国入りすることを中国製造2025としています。第2段階は、2035年までに中国の製造業レベルを世界の製造強国陣営の中位に位置させ、第3段階は、2049年には製造強国のトップに立つというものです。

 「中国製造2025」は、5Gなどの次世代通信や、電気自動車などの次世代自動車、産業用ロボットなど10項目の産業分野について、国産比率の数値目標を設け、補助金などを投じて高度化をはかり、世界トップ水準に育成するという中国の国家戦略です。2010年、中国は日本を抜いてGDP世界第2位に躍り出た後、2012年にはアメリカを超えて「世界の工場」と言われ、製造業の規模で世界一の地位を築きました。しかしながら、豊富な労働力と低賃金に支えられた労働集約型の製造業であり、品質や生産効率などでは製造強国のトップグループであるドイツ、アメリカ 、日本などの後塵を拝しています。近隣のインドやASEANの経済成長も著しく、特に人口大国インドの製造業が高度化すれば脅威となるため、中国は国威をかけて「中国製造2025」を推進させています。

 中国の製造業の成長を最も象徴し、中国製造2025の中核を担う都市の一つが、香港に隣接する深圳です。かつては東京都ほどの広さに人口約30万人が住むさびれた漁村でしたが、中国最初の経済特区として1978年に改革開放され、外資系企業の工場が次々と進出し、現在人口約1,400万人を超える「世界の工場」エリアとして急成長を遂げました。65歳以上の高齢者は2%しかおらず、起業意欲旺盛な若年層が国内外から深圳へ移り住み、2016年の新規登録企業数は約38万社以上で、実に1日1,000社以上が起業した計算になります。先進諸国の影響を受けているため、生活水準や文化的な意識も高く、中国製造2025の推進、そして30年後の製造強国トップグループ入りするために、深圳のさらなる成長は必要不可欠となっています。

 中国ではネットショッピング、ネット決済などIT技術をサービス産業で応用させるビジネスは発達していますが、IT技術を製造業へ応用させる展開は未発達です。故に、ITによる製造業高度化のための様々な事業展開と同時に、海外企業買収も積極的に進め、技術力や経営管理などのノウハウ獲得も進めています。また、国を挙げた国産ブランドの育成にも注力しており、中国ブランドを世界へ広めていくとして2017年から5月10日を「中国品牌日(チャイニーズ・ブランド・デー)」に指定しました。連日ニュースで報道されている「一帯一路」は、このような中国ブランドの海外進出および人民元の国際化を後押しするための重要な戦略であり、しいては製造強国トップへ向けた布石の一つとして注目されています。

 中国製造2025とは直接的な関係はありませんが、伝統工芸の観点から見ても中国の技術力は年々高まっています。昨年2018年、中国政府は「国家伝統工芸振興目録」を発表し、中国の伝統工芸振興に向けた政策支援の強化を開始しました。中国の伝統工芸の代表格は、人口約45万人の景徳鎮です。景徳鎮陶磁大学は生徒数約2万人で、人気の陶磁学部は世界中から工芸を志す留学生が集まり、さらに人口の多くが陶磁器産業に関わっており、その技術は既に世界最高水準に達しています。鉄器や銅器なども中国国内で盛んな工芸でしたが、ほぼ途絶えた技術が近年復活し始め、中国の工芸見本市では新規の金属工芸メーカーや作家が次々と参入。人口の約4割・6億人がお茶愛好家と言われる中国人の趣味需要を満たそうと、中国の工芸ビジネスは過熱しています。

 戦後直後の日本製品は「オキュパイドジャパン」と言われ、安物で故障が多く、粗悪品の代名詞とまで言われていましたが、日本の製造業は品質重視の商品開発に転換し、新興国の安価製品との差別化をはかり、製造強国トップグループの仲間入りを果たしました。そして今、中国は30年計画で製造強国のトップグループ入りを目指し、「世界の工場」から「イノベーション大国」への産業構造の転換に本腰を入れました。中国経済は減速していますが、世界平均よりも成長率は高く、世界のGDPに占める中国のシェア拡大は持続しており、今後も市場としての中国の重要性は一層増していくことでしょう。中国はインダストリー2.0の段階であり、4.0まで向上させるために新たな設備投資は製造強国以上に必要となるため、日本からの資本財・部品の対日輸出は、今後、大きく伸びていくことが予想されます。共存共栄の精神で、隣国である中国との連携を強化させ、30年後、日本と中国が製造強国のトップグループを形成し、アジアから世界の製造業をリードする体制が取れていることを願っています。