[第122号]地域資源を観光資源にリデザインする〜DMO〜

DMOとは「Destination Management Organization」の頭文字を取ったもので、地域の観光マーケティング、マネジメントを担う法人を指し、観光事業者だけでなく官民連携で地域の産業界が一体となって稼ぐ観光の仕組みを作り、主体的に観光産業を牽引していくための新型組織です。観光庁がDMOについて告知を行ったのが2015年11月で、登録を開始したのは2016年2月から。現在全国122地域が登録しており、それらは複数の都道府県にまたがる「広域連携DMO(2件)」、複数の市区町村にまたがる「地域連携DMO(41件)」、一つの市区町村などの小さな単位で活動する「地域DMO(79件)」の3つの区分に分かれます。観光庁は観光立国を標榜し、また地方創生を掲げる国の方針もあってDMOを積極的に推進していますが、2年半の間でこれだけ多数の地域が登録を行っており、全国的にDMOの関心の高さが伺えます。

DMO導入の背景としては、観光を取り巻く環境の変化が挙げられ、団体旅行から個人や少人数での旅行へと変化したことが最大の要因ですが、全国の地域産業の衰退が進む中、その産業を資源とした産業観光を推進すべく、地域が交流人口(旅行者)の増加を求めるようになったことも要因の一つとして挙げられます。また、行政主体のプロモーションやイベント活動、旅行会社による団体旅行の送客など、従来の「発地型」の観光振興では効果が薄くなってきていることも事実です。しかしながら、地域の観光は行政抜きでは成し得ず、また民間企業のみでも成し得ないものです。これを補うのがDMOであり、今後は、行政と地域の産業界が連携し、観光に経営力を発揮する地域のコーディネーター役を中心とした着地型視点の観光振興が求められています。

 では、発地側が団体旅行向けに企画する名所巡り・宴会・研修などのパッケージツアー旅行に代わる、着地側だからこそ出来る企画とは、どういったものでしょうか。それは、人が旅に何を求めるかにフォーカスする視点と、地域が持つ様々な地域資源に誇りと愛着をもって精通することがベースとなります。個人旅行のコアな要望に応えるには、自ずと観光商材のクオリティに「深さ」が求められます。つまり、着地側にいる工業、農業、漁業、小売業、飲食業など、地場産業に関わる全ての業界に於いて「観光」を「ビジネス」に結びつける意識が必要不可欠であると同時に、地域観光資源と個人レベルのニーズを企画として引き合わせ、関係者間の調整機能と民間のノウハウを積極的に取り込んだ企画実施能力がDMOには期待されているのです。

 観光産業の盛んな欧州はDMOの先進的地域であり、中でもDMOの成功事例としてバルセロナの存在が知られています。1992年バルセロナ五輪後もさらに観光客を伸ばしていこうと、それまでは行政が請け負っていた観光誘致活動を、民間の経営力も取り入れたDMO(バルセロナ観光局)へと移行させました。バルセロナは人口約160万人と、世界の有名観光都市と比較すれば小規模な都市ですが、オリンピック前1990年の観光客約170万人が、今や約3200万人という劇的な増加率。この観光客増加を支えるDMOの活動収入源としては例えば、独自の観光商品販売、ツーリズムバス運営、FCバルセロナのチケットを活用した旅行商品企画販売をはじめ、近年ではコンベンション誘致の活動フィーとしての宿泊料の一部など、多岐に渡ります。半官半民の組織への移行によって、行政は観光政策に注力し、日常のオペレーションはDMOが担当することで迅速な事業展開を実現させ、五輪開催後の観光成長のモデルケースとして世界の観光関係者が注目しています。

 国内旅行は人口減少社会の到来によって縮小が見込まれる一方、今後、大きな伸びを期待出来るのがインバウンドであり、日本の観光のあり方が問われています。2020年東京五輪開催年は訪日外国人4000万人、10年後の2030年には6000万人を政府目標としており、東京五輪後はインバウンドの地方への動きが加速することが予想されます。今、地域観光の現場は変革の時であり、このチャンスを自らの手に引き寄せることが出来れば、政府の目指す「成長エンジン」として、日本の経済を大きく牽引していくことでしょう。従来の価値体系を変えていくことを恐れず、DMOにより官民を新たな形で繋ぐことで地域資源の掘り起こしと新たな付加価値を打ち出し、魅力ある観光立国「日本」を実現させたいものです。