[第116号]訪日台湾人が握る、地域観光活性の鍵

 親日家が多く、欧米では「フォルモサ(美しい島)」の愛称で親しまれている台湾。日本の最西端・与那国島から約100キロほどの場所に位置しており、日本に最も近い国の一つです。1895年、日清戦争で日本が勝利したことによって、台湾は日本へ割譲され、日本の統治時代が始まりましたが、1945年、太平洋戦争で日本が連合国に降伏したことに伴い、台湾は中華民国へと返還されました。その後、中国では国民党と共産党による内戦が続き、1949年、内戦に勝利した共産党が中華人民共和国を建国。国民党(中華民国)は台湾に移り存続することになりました。これがいわゆる「2つの中国」として、現在も続いています。民族構成としては、1945年の日本統治終了後に中国から移入した中華系と、それ以前からいた中華系、台湾土着の混成となっています。台湾は九州地方とほぼ同じくらいの国土面積で、人口は約2350万。小規模、小人口でありながら、世界第21位の経済規模を有し、特にハイテク産業は世界経済において重要な役割を担っています。

 台湾は世界一の親日国として知られています。台湾での世論調査によると、最も好きな国として日本を挙げた台湾人は56%にも登り、半数を超えました。この数値は年々増加傾向にあり、2位の中国(6%)、3位のアメリカ(5%)と約10倍の開きがあり、台湾での日本への好感度は群を抜いています。親日家が多く、訪日客数も年々急増しており、昨年2017年の訪日台湾人は過去最高の456万人と、中国・韓国に続く3番目。5年前と比較すると約5倍に増加しています。台湾の人口約2350万人のうち、再訪問がなかったと仮定すると、実に6人に1人が訪日している計算となり、人口からの割合で言えば世界でトップです。しかも、台湾人の訪日リピート率80%も世界一。そのうち、78%が2回以上、14%が10回以上の訪日経験があり、何度も日本へ旅行する傾向が見受けられ、旅行消費額も一人当たり約6万円と高額で、爆買いで話題となった中国人に次いで第2位となっています。


 他国の訪日客があまり行かない地方都市にも積極的に足を伸ばしているのが、台湾訪日客の特色です。東北、北陸、四国を中心に、実に22県で外国人宿泊者数1位が台湾人というデータがあります。昨年2017年は地方都市への観光が大幅に増えており、「谷川岳(新潟県・群馬県)」は89%増、「成田山(千葉県)」は74%増、「天橋立(京都府)」は51%増など、SNSなどの影響によって飛躍的に増加した地域もあります。このように地方都市は概ね台湾人の観光客が増加しており、地域活性化に一役を担っています。一方、「東京スカイツリー」14%減をはじめ、東京都心の商業施設は軒並み減少傾向にあり、商品の所有に価値を見出す「モノ消費」から、体験サービスなど「コト消費」にトレンドが移る中、新たな観光地を求めて地方を訪ねる訪日台湾人が増えていることが分かります。台湾人向けの訴求を打つことは、地方都市にとって重要なインバウンド対策となり、今後、地方自治体や地場産業が、いかにして台湾人を地方へ流すことが出来るかが課題となります。


 英フィナンシャル・タイムズが行ったアジア太平洋の都市の将来性に関する調査で、対象となった163都市中、台湾の首都・台北は、シンガポール、東京に次ぐ第3位という高評価を得ました。前回は6位でしたが、今や東京と比類する地位まで登り詰めました。3位の台北以降は、ソウル、香港、クアラルンプール、北京、上海、大阪、シドニーの順になっています。台北の評価対象として、ダイナミックな資本主義経済として急成長を遂げていることが要因で、高い教育水準と比較的安価な労働力、輸出入コストの低さ、不動産登記にかかる費用の安さなどが評価されました。また、桃園・松山両空港には100以上の都市と結ぶ航空路線が就航している点も、高い評価を得ています。一方、世界で最も総合的な報告書の一つ「Expat Insider 2017」によると、最も生活の質が高い国の第1位はポルトガル、第2位は台湾という調査結果が出ました。以降、第3位はスペインで、日本は第6位に。台湾人は人生を幸福と感じ、仕事と生活のバランスに満足している国民が多く、住みやすさランキングにおいて世界で堂々の2位に位置しています。



 台湾と言えばお茶をイメージする方も多いでしょう。台湾は世界に名だたるお茶の産地であり、台湾を代表する産業の一つです。台湾茶の多くは烏龍茶で、数多くの種類が存在し、その特徴も様々ですが、いずれも品質は世界最高峰として評価されており、日本にも多数輸出されています。最近では、標高1000m以上で採取された高山茶に人気が集まっており、中でも標高2500mで採取した最高級ウーロン茶の香りは秀逸です。さらに30年熟成させた烏龍茶はまさに究極のお茶で、色、香り、余韻など、全ての要素が完璧に備わっています。日本で飲む烏龍茶のほとんどはペットボトルですが、茶器で淹れた高山烏龍茶は全くの別もので、その深い味わいは、まさに人生を豊かにしてくれることでしょう。烏龍茶は日本人向けの味わいであり、1980年代に日本で烏龍茶ブームが起こりましたが、今度はカフェや飲食店を中心に茶器で高山烏龍茶を淹れる文化が広がり、その味わいが広く日本人に伝われば、第2次烏龍茶ブームが起こることは間違いなく、烏龍茶が契機となり日本で台湾ブームが起こる可能性も秘めています。



 台湾は、安全、安心、安楽の「三安」の国。日本人が安心して旅行や駐在ができる国です。昨年2017年、台湾観光局による日本人向けのプロモーション事業「Meet Colors!台湾」が発表され、日本国内のテレビCMも放映されました。日本人旅行者が集中している台北に加えて、地方都市の魅力も訴求するもので、初めて日本人旅行者200万人を超えた2017年からさらなる増加を目指し、日本と台湾の交流人口を増やしていく狙いです。また、昨年から日本と台湾の観光関係団体が集まる「日台観光サミット」も始まり、現交流人口約600万人を、2020年には700万人まで延ばし、800万人、900万人のさらなる高みを視野に入れながらその後も安定的に維持する努力をし、観光事業を健全で永続的に発展させることを確認しました。今後も日本と台湾の相互で定期的にサミットが開催されます。確実に経済成長を遂げ、日本との交通の便が良く、さらに日本人との相性も良い台湾。両国の関係をさらに深めていくことは、日本企業の台湾への進出、そして、台湾人の訪日増加に繋がります。台湾を意識したインバウンド対策を着実に実行し、地域活性化へと繋げていきたいものです。