[第11号]銀座に生きる和光のブランディング手法

銀座の街に時を知らせる「和光」の鐘の音。銀座4丁目の交差点を見下ろすように建つ時計塔は、明治27年に竣工されましたが、その後建て替えが行われ、 現在の時計塔は、今から77年前の昭和7年に完成したものです。今年、経済産業省が日本の産業近代化に大きく貢献した建造物や機械などについて、その保 存、活用を目的に認定する「近代化産業遺産」に和光様の時計塔が認定されました。これからも、銀座を代表する建造物として、その雄姿は後世に伝えられるこ とでしょう。

和光様は服部時計店(現セイコー)の小売部門としてスタートし、戦後の昭和22年から「和光」のブランドで営業を開始しました。和光様は時計、室内装飾 品、紳士・婦人服など、高価格帯の厳選された品揃えを誇っていますが、最大の特色は、徹底した「自前主義」を貫く、独自の経営が実践されていることです。 自社でオリジナルの商品を開発し、自社スタッフで販売するというシステムを採用されており、その自社ブランドの数は店内の約半数を占めます。このように 「自前主義」をコンセプトとしているため、有名ブランドのテナント運営や派遣社員の配置などは行っていません。

そして、現在の小売業では常識となりつつあるバーゲンセールも行っていません。お客様から「和光」ブランドを熟知していただき、価値観を共有することが大切であると、値引きは顧客満足度を高めるための手段ではないというのが、和光様の考え方です。

また、和光様は「銀座観」を非常に大切にされています。銀座はオシャレを見る場所、見せる場所、いわば、「銀座はお客様の舞台」であることをしっかりと 認識され、日曜、祝日は営業を行わないという、独自の営業スタイルを展開されています。日曜、祝日の銀座・中央通りは歩行者天国となり、ラフな格好をした お客様が多いため、フォーマルな和光様の雰囲気には合わず、さらには店内が人出で混雑するためお客様との優良なコミュニケーションが実践できない、という のが主な理由です。

和光様は、お客様との信頼関係を見事なまでに構築されている企業であり、和光様でお買い物するお客様は、和光様という「舞台」でお買い物をすることに誇りを感じており、また、和光様スタッフの方々は、和光様という「舞台」で販売していることに誇りを感じています。

もともと老舗の多いというイメージの銀座ですが、実は江戸時代創業の企業がひしめく日本橋に比べると、銀座は、洋服、靴、洋酒など舶来品の小売業が多 く、次々と新しいものが登場する「新しい」ものの宝庫です。そうした、いわば、桧舞台とも言える銀座の一等地に位置する和光様は、銀座と同じ「見せて、み られる」場所でもあります。これからも、「ハイカラ」なテイストを残した銀座の舞台であり続けることが、和光様の使命であり、和光様のブランディング手法 でもあるのです。